村上龍は1976年のデビュー以降、刺激的な小説を数多く執筆してきた作家です
近年は自信の年齢に応じて老齢期をテーマにした小説も多く出すようになってきて、作家としての成熟差を増しつつ、キャリアの終わりも見えてきた作家です
初期の衝動的な内容の作品から、近年発表された味わいのあるものまで、通して読むことができる今は村上龍の小説を読むにはちょうどよい時期でしょう
全てのキャリアを通じて、村上龍の小説のオススメの作品を、出版時期から順に5つ紹介します
目次
限りなく透明に近いブルー
村上龍のデビュー作で、最も有名かつ代表的なものはこちらでしょうか
ストーリー自体はあまりはっきりしておらず、文体とその冷ややかな視点、そしてそれとは不釣り合いなほどの刺激的な内容が特徴の小説です
そういった刺激的な内容でありつつ、その根本には鳥、と隠喩される社会にでるのを恐れる若い少年の心が描かれているのが印象的です
デビュー作にその作家の全てが現れる、といいますが、その後の村上龍の小説を見ても、そのエッセンスはこの小説の段階ですでに確立しています
そういった、その後につながっていく筆者の原液のようなものを感じることができる小説です
コインロッカー・ベイビーズ
村上龍の長編小説のプロットは、ほぼこちらの小説を基本としています
キャラクターの造形、そしてストーリーの展開など、その後の長編を読もうという人はこちらをまず読んでおくといいでしょう
話の展開の速さ、文体の流れ、そして登場人物の行動力など、エネルギーをそのままぶつけたような小説です
他の村上龍の長編同様あまりにもストーリーが展開しすぎ、そして登場人物の行動量も多いので一言で論議するのは難しい小説ですがその圧倒的な情報量と熱量を感じる、他にはない小説です
69 sixty nine
妻夫木聡主演で映画化もされたので、知っている人も多いのではないでしょうか
あとがきで村上龍自身が書いているように、これは非常に楽しい小説です
読み終わって暗い気持ちになることもなく、当時の時代を感じ取ることができるまさに青春小説といった内容です
日本がバブルを迎え、ジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれた当時の時代を生きた少年が、佐世保港のエンタープライズの問題など、社会の変化を感じとる瞬間を描き、その頃の若者の生き方を追体験させてくれるような内容です
肩肘張らずに、ちょっとした空き時間に読めるような軽い文体も魅力です
インザ・ミソスープ
小説の出版後に神戸の連続殺傷事件が起こり、そちらの事件と内容がリンクしていたために有名になった小説です
バブルが弾け、大きく時代が変わり始めている日本の中で、外国人のガイドをする20歳の日本人が主人公です
他の小節と文体が変わっていて、非常にロジカルで、そして理屈っぽく重箱の隅をつつくような文章が永遠と続いていきます
ミステリーのような雰囲気もありつつ物語は進んでいき、そしてクライマックスは村上龍の小説の中でもトップクラスの衝撃度です
当時の、物質的には十分に恵まれたが、それだけとなってしまった日本の空白感や矛盾点を描写しており、具体的かつ切り込んでくるような表現に私は何度も頭の芯がしびれるような思いをしました
日本にはすべてがある。ただ、希望だけがない。
というのは、村上龍の希望の国のエクソダスという小説のセリフですが、そういったテーマはこちらの小説ですでにはっきりと描かれています
55歳からのハローライフ
数年前に刊行された、50代の男女をテーマにした短編集です
氏のベストセラーである13歳からのハローワークを意識したタイトルですが、直セク的な関係はありません
村上龍といえば若い男性を主人公にすることが多く、そして老齢者はよく描かれないことが多かったですが、こちらの小説では自身と同世代を主人公にして書かれています
筆者の年齢による思考の変化を感じさせられるとともに、年齢とともに成長していく氏の新しい領域を見ることのできる小説です
村上龍の小説を読む上で知っておいたほうがいいこと
作風は一つではない
村上龍の小説は、似たようなテーマを扱うことも多くありますが、それぞれの小節ごとに文体や表現方法は違っていて、全く別の筆者が書いたような多様性があります
しかし、そういった多くの作風の中でも芯の部分は共通していたりもして、読んでいるうちにそんな作品の本質を掴むような感覚が味わえのも氏の小説の面白さです
ごまかしはなく、はっきりとしている
村上龍の小説は、曖昧な表現はなく、はっきりとした描写が多いのが特徴です
あまりにもはっきりとしているため、脳裏に直接映像がはっきり描くことができるような文章で、個々に解釈を委ねるような文章が好きな人には向いていない物が多いとも言えます
救いがあるわけではない
村上龍の小説は、特にハッピーエンドや何かしらの救いがあることを前提に書かれているわけではありません
近日発表された小説には希望が意図的に盛り込まれていることもありますが、過去の作品ではそういったことはなく、救いのない終わり方もあります
最後の家族といった作品のように、何かを失うことでそれ自体が救いとなるという新しい救いの提案のような終わり方があるのも印象的です
筆者は常に成長している
村上龍の作風は常に変化し続けており、そして筆者自信の主張も変化し続けています
それによって、作品をまたぐことで筆者の主張が矛盾したりすることもおおくありますが、筆者の主張が常に変わり続けることは許容していないといけません
小説ではない、他の作品
村上龍は、小説だけでなく他の形態の書籍も多く発行しており、それぞれ強い魅力を持っています
13歳のハローワーク
ベストセラーになったので読んだことのある方も多いでしょう
各業種の内容を詳しく書いた、百科全集のような形式の本です
といっても、氏が1人で執筆しているため、細かい職種の内容がフォローしきれているとうわけではなく、どちらかというとエッセイとしての読み物として受け取ったほうがいいかもしれません
個人と社会との関わり方というのが村上龍の小説の大きなテーマの一つですが、そういった内容では他の小説とリンクしているとも言えます
その後、新しい職種を追加した改訂版も出ています
すべての男は消耗品である
村上龍のエッセイ集です
こちらは第一集ですが、その後もナンバリングされたものが続刊され続けています
初期の頃は若者の現代社会での生き方を主に描写し、途中からサッカー、テニス、キューバ音楽、国際関係、経済など様々なテーマを取り入れていったため、前半と後半とで内容が全く違ってしまっているエッセイ集です
先日、最終巻と冠するものも出て、いよいよ氏のキャリアも終わろうとしているのかと予感させるものになっています
他のおすすめの作家
中上健次
村上龍が初期の頃に心酔していた作家です
対談集も出しています
社会と個人、というテーマなど、共通する部分も多く、読み比べてみると面白い作家です
村上春樹
同世代で同じ名字というだけでよく比較される作家です
正直、作品の内容自体はあまり共通項はありませんが、同じ時代を切り取った、同世代の作家という意味では比較して見て面白い相手です
こちらとも対談集が出ています
山田詠美
アメリカ文化、性風俗など共通するテーマの多い作家です
村上龍のデビュー作の原題を模した短編を書くなど、お互いに意識をして執筆している作家で、その関係性を感じ取るのも面白いです
まとめ:村上龍という時代
村上龍は、時代を切り取ってきた作家でした
もう作家としてのキャリアは終末に差し掛かっており、そろそろ一つの時代が終わるのかなとも感じています
リアルタイムで同じ時代を生きている世代として、まだ現役であるうちに氏の小説を読んでおくということは、とても意味があることに思います
ほいでは!